第1回日中関係シンポジウム

第1回日中関係シンポジウム

「日中関係―現状と展望」

日中平和友好条約締結35周年&工学院大学孔子学院創立5周年記念

 

日時:2013年11月28日(木) 14:00~17:30

場所:新宿NSビル3階 南ブロック3-G会議室

主催:工学院大学孔子学院 日中未来の会

中国国際友人研究会 東京都日中友好協会

後援:人民中国雑誌社

 

基調発言  中国側 呉従勇・中国国際友人研究会副会長

日本側 西園寺一晃・工学院大学孔子学院学院長

パネリスト  中国側 王泰平・元中国駐大阪総領事

喬亨瑞・雲南民族大学教授

陳言・フリージャーナリスト

日本側 村田忠禧・横浜国立大学名誉教授

宇都宮徳一郎・東京都日中友好協会会長

近藤大博・元『中央公論』編集長

総合司会  横堀克己・日中未来の会共同代表

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<基調発言>

 西園寺一晃氏

 まずは今の日中間の政治関係、国家関係について、次の3点を提起したい。

1.二国間関係の正常で良い関係というのは、矛盾や摩擦、紛争を発生させないことではなく、それが発生したときに、それ以上拡大させず、沈静化させ、平和的に話し合いで解決する方向に持っていく冷静さ、決意、システムがあるかどうかである。

2.双方が冷静に大局的な立場に立つこと。例えば、「島」の問題はそう簡単に解決するはずがない。これを正面から取り上げて議論を突き詰めれば、矛盾や対立は深まり、紛争はエスカレートする。すぐに解決できない問題は一旦わきに置いておく。「大同小異(小異を残して大同につく)」の立場が大切だ。

3.両国にとって「島」の問題は大変重要である。しかし、両国の問題はこれだけではない。この問題のために全ての交流が止まる、全てが破壊されるといった愚に走らないこと。

 次は民間関係について。国家関係の基礎というのは民間、つまり国民間の関係にある。特に国交正常化の過程をみると、日中というのは大変特殊な関係にある。普通は国交が正常化した後、大々的に民間交流が始まるものだが、日中の場合は、民間交流の積み上げがあって、その延長線上に国交回復がある。まさに「民を以って官を促す」の典型である。

 今のような硬直した関係を打開するには、文化交流、民間交流しかない。双方の政府は、国家間の関係がどんなに悪くても、民間交流に圧力をかけたり、妨害したり、ましてやこれを止めることは絶対に避けてほしい。

 両国の政府には次のことを申し上げたい。中国の政府に対しては、毛沢東・周恩来時代の外交・対外戦略の原点に戻ってほしい。それは一言で言えば、愛国主義と国際主義の結合だ。国際主義が欠如した愛国主義というのは、往々にして狭隘なナショナリズムに走る。それは避けなければならない。安倍政権に対しては、冷戦思考から脱却していただきたい。歴史の大きな流れを見つめて、新しい中国観を構築してほしい。宇都宮徳馬先生は、「日中友好は日本にとって最大の安全保障である」とおっしゃっていた。

 最後に、50年前に周恩来首相から直接聞いた言葉を紹介する。「歴史的に見ると中日あい争えばアジアは乱れる。手を携えればアジアは安寧である」

呉従勇氏

 1972年の国交正常化からすでに41年。過去を振り返ると、春も冬もあり、蜜月時代もあれば、衝突により厳しい時代、苦しい時代もあった。日中両国は、国交正常化により、全く新しい関係を切り開き、政治や経済、各分野において友好交流と協力は目覚しい発展を遂げてきた。それと同時に、領土問題や歴史問題、価値観の相違等により、時々激しい対立が発生し、友好関係に大きな損害をもたらし、国民の友好感情も傷つけている。こうした危機に直面し、両国国民の大多数は一日も早い対立の解消を望んでいる。

 この状況をいかに打開するかについて、いくつか意見を述べたい。

1.政治家が率先して理性と抑制を保ち、問題解決に不利なことを言わず、行わず、有利なことを大いに行わなければならない。

2.歴史の直視と尊重が問題解決の前提である。領土の問題は客観的な存在であり、長い間、両国の関係発展にとって障害のひとつとなっている。こうした問題については、抹消、回避、否認、一方的な行動をとることはできない。歴史の事実を直視、尊重することは関係発展の重要な前提である。

3.「大同小異」が必要。相互理解と相互信頼を高めることは両国発展の重要な保障となる。中国と日本は一衣帯水の隣国で、お互いあっての関係であり、相手を脅威とみなしてはならない。中国の改革・開放は、中国自身だけでなく、日本を含む世界の国々のために、広範な協力発展のチャンスと余地をもたらしてきた。いかなる国に対しても脅威をもたらしたことはない。

4.中日友好は排他的なものではない。いかなる国からの影響も受けるべきではない。中日友好は両国のためだけでなく、アジア、世界の発展にも寄与する。

5.民間交流は友好の需要な基礎である。両国間の信頼度が急激に下がり、国民感情が大きく傷つけられている中、これまでどおりに積極的に交流を行い、国民感情の改善と健全な発展のため、推進してゆくことが当面の急務だ。

6.青少年の交流は両国の未来である。近年推進されている交流は、両国青年の相互理解に大いに役立っている。

7.メディアは相互理解・信頼を増進する、重要な窓口であり、架け橋である。大多数の国民はメディアを通して相手国を理解し、メディアに大きく影響されている。メディア同士の交流を強化して、客観的で正しい報道を増やし、両国国民の隔たり、誤解を解消すべきである。

 最後に、友好は歴史の流れであり、いかなる力もこれを阻むことができない。末永い友好、平和を守ることは平和友好条約の真髄であり、現在の行き詰まりの状態を打破することが我々双方の共通の責任と使命である。共に努力しましょう。

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<第一部>「現在の日中関係をいかに打開するか」

王泰平氏 

 今年、日本と中国でいくつかのシンポジウムやフォーラムに出席したが、両国の多くの人が今の状態に焦りを持ち、一刻も早く解決したいという気持ちは同じである。しかし、いかに現在の苦境から脱却するかについては、意見が分かれている。

 私としては、「病状にあった投薬」がカギだと考える。「島」の問題が現在の両国の関係悪化の原因となっているため、ここから着手して話し合うべきで、これを避けるべきではない。両国政府は何度も接触しているが、まだ合意できていない。

 日本の書店に行ってみると、中国や中日関係の本が多かったが、①中国脅威論②中国壊滅論③中国反日論、の3つのテーマで書かれているものが大半であった。新聞も同じである。

 両国は相互不信感が非常に強い。不信感と誤解により両国関係はますます複雑化し、悪循環に陥っている。なぜこうなったかというと、日本が中国をどう見ているか、日本の中国観に関係していると思う。

 中国の改革・開放以来、中日両国間の力関係は変化しつつある。しかしお互いにそれに慣れていない。中日関係は転換期、過渡期に入っている。非常に難しい段階である。こうした時期の特徴としては、摩擦、矛盾が頻繁に発生する。よって、慎重に対応しないと危険である。客観的に冷静に対応することが大切である。中国の軍事力は確かに急速に発展しているが、これが脅威になるかならないか、或いはその必要があるかないかは捉え方による。中国の立場に立てば理解できることで、中国は今、工業、農業、軍事、各方面で現代化の道を歩んでいる最中である。相撲でいうとまだせいぜい関脇レベルだ。

 最後に申し上げたいのは、中国の対日政策は変わっていないということである。中国は13億、14億の人がいて、多元化しており、様々な意見、見方があるが、中国政府の基本政策は、日本との世々代々の平和友好、互恵協力、共同発展であり、それを変わっていない。

村田忠禧氏

 まず、11月23日に発表された、中国の防空識別圏の問題について、少しお話したい。

 報道によると、11月20日、程永華駐日大使と小野寺防衛相が懇談したという。ここからみるに、これは、日中関係打開のために中国側が打った手ではないかと考える。つまり、「島」問題について、日本側は領土問題の存在を否定しているため、双方が話合いのテーブルにつくことはできない。そこで中国は「防空識別圏」を設定し、これによって日本側と不測の事態が発生しないよう話合いを行うきっかけをつくった、ともみえる。よってこの問題を大げさに考えることはない。むしろ、両国が話合いの場をもち、不測の事態が発生しないよう政治的にも軍事的にも信頼関係を構築する、日中関係を良い方向に展開させるひとつの大きな要因であると思っている。

 領土紛争の平和的解決には、客観的、科学的、冷静な態度で物事を考えることが大切だ。領土問題はナショナリズムを煽る。よって、領土問題については事実に基づいた解決が必要であり、事実を大事にすべきである。認識の共有化は一挙にはできない。まず、事実の共有化をしなければならない。

 中国は国交正常化前後の情報を公開していない。例えば、私が重要視している、周恩来氏と竹入氏の会談の「竹入メモ」の一部を日本の外務省は意図的に削除している。これを中国側に見せてくれといっているが、なかなか見せてくれない。

 相手の立場に立つ、相手の主張の根拠を知る、そういった精神を持てば、平和的な解決は十分可能である。

 最後にひとつ、「妥協」をすすめたい。どちらかが絶対に正しいということはなく、お互いにそれなりの道理、根拠がある。自分の国だけが勝つことを考えたら、どうしたって戦争になる。こんな小さな島のことで戦争するなんてそんな馬鹿な話はない。中国はロシアとの間で領土問題をウィンウィンの関係で解決している。それをこの島の問題でもやるべきで、それを実現すれば、将来的には東アジア共同体をつくる第一歩になりうる。ドイツとフランスの争いの末にEUができたように、我々もこの島の問題を、真剣に、まじめに、平和的に、理性的に考え、双方が発展できる解決の道を探れば、良い方向へ向うはずだ。悲観する必要はない。

【会場より】

・   日中関係は大変難しい状態にあることを実感した。少し乱暴な言い方かもしれないが、本当に事態が行き詰れば、知恵が出てくるのではないだろうか。

・   もう国有化されてしまった以上、我々はこれをどのように受け止めればよいのか。

  • 村田氏:個人が所有しているより、国有化のほうが良い。なぜなら、将来的に共同管理を行う第一歩と考えられるからだ。
  • 王氏:「国有化」ということについて、中国は誤解しているのではないかとの意見があったが、そうではない。日本は国有化によって現状を変えた。中国の発展に対して危機感を持ち、国有化という行動に出たのではないかと思う。これは日本の戦略的な判断ミスであると思う。

・   中国のスポークスマンは「島」について「核心的利益」だと言っているが、この言葉は使わないほうがいいのではないか。

  • 王氏:私としては、「核心的利益に触れる問題」という言い方のほうがもっと適切であると思う。

・   将来何か良い知恵が出てくるのではないかというが、知恵はもうある。元外務事務次官の栗山尚一さんが、こういう問題は外交では「agree to disagree不同意の同意」という考えがあり、これは戦争しないための知恵であり、これをこの問題に当てはめればいいのだと言っている。新しい知恵を探るよりも、すでにある知恵を使えばいいのではないだろうか。

・   先ほど、現状を変えたのは日本の「国有化」だという話があったが、92年に中国が「領海法」を設定したのが現状を変えた一歩であると思う。これについてはいかがか。

  • 王氏:日本にはそういう考え方があるが、これは中国がずっと主張してきた立場を明らかにするためにとった正当な措置である。両国において認識の違いがある。

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 <第二部>「新たな日中関係をいかに構築するか」

 宇都宮徳一郎氏

 来年2014年は、東京と北京の友好都市関係締結35周年であるため、今年10月、民間の友好交流活動を具体的に進め、友好交流の中心となるよう努力する旨の覚書を結んだ。

 我々東京都日中友好協会は、青少年の交流、文化、スポーツなど多岐にわたる交流を、北京をカウンターパートとして行っている。

 政治関係がどんな状況にあっても、民間交流なしでは友好というものはありえない。そういう信念をもって、交流活動をしている。例えば渋谷区の日中友好協会では、短期のホームステイ活動を続けている。これに参加した中学生は非常に良い経験をしている。このような地道な活動を続けていくことがいかに大事か、そしていかに大変かを実感している。中国側も大変努力してくださっている。

 こうした皆さんの熱意が、民間交流の原動力になっているということを申し上げたい。

喬亨瑞氏

 中日両国は国交正常化以来、文化方面の交流を盛んに行っている。

 雲南省がアジアの稲作文化の中心地という理論については、賛否両論あるが、中国と日本の交流を促進する働きをしたのは事実である。

 雲南省には25の少数民族がいる。南に分布しているのは稲作民、北は遊牧民というのが大まかな分け方であるが、稲作民の文化は、日本に似ている点がたくさんある。このため、多くの日本人研究者が雲南にやって来て研究している。

 米の栽培以外にも酒や味噌の作り方、そして神話や伝説にも日本とよく似ているものがある。竹取物語に似た神話が雲南の少数民族にもあると言われている。

 言語学分野の学者も雲南省に注目している。雲南省には20数種類の言葉が存在するため、言語学を研究するのに良い場所である。

 このほか、家族構造や少数民族の人口問題等、雲南には研究に値するテーマがたくさんある。文化や科学技術の交流を進めていくことは、両国のこれからの友好発展の基礎であろうと考える。

近藤大博氏

 残念なことであるが、日本人の多くが中国を「嫌悪」している。各種世論調査によれば、中国に対する印象が良くないと答える人は90%にのぼる。中国を非難する内容のほうがテレビの視聴率は上がり、新聞や雑誌も、読者の期待通りに作成すれば購読数は増える。

 15年前、チャールズ・バレスというアメリカの新聞記者が、外国報道には4つの欠陥、偏見があると言った。1点目は、不必要に戦争を思わせる用語を使うこと。2点目は、外国を一枚岩であると描くこと。3点目は、自国との文化的・社会的な違いを相手の後進性によるものだとして、優越感に浸ろうとすること。4つ目は、バランス感覚の欠如。

 当時バレスはアメリカの新聞記者であり、問題であるとしたのは、アメリカの日本報道についてである。これまで自分たちの弟分とみなしてきた日本が経済的に勃興してきて、こうした日本の変化に対してアメリカは戸惑いを持っていた。ライバルとして台頭してきた日本の弱みを描いた記事をアメリカ人は大変喜んだのである。

 現在の日本のメディアはこれに酷似している。

 自らの耳に心地よい情報のみを求めてはならない。今後、メディアリテラシーが日中双方にとって大事なものになるのではないかと思う。

陳言氏

 3点お話したいと思う。

 まず、今までの中日の相互信頼は何を基礎にしていたのか。私は30年前に大学を出て、先輩の政治家や新聞記者と多く付き合ってきたが、彼等のほとんどは戦争経験者であり、中日不再戦という言葉が多かった。戦争は二度としないということを基礎にする中国と日本の相互信頼があった。それが今日まだあるかというと、薄くなってきているのではないかと思う。

 次に、こうした相互信頼はどういう結果をもたらしたか。相互信頼の中で、日本は中国を支援し、そのおかげで中国は経済発展を遂げ、これによって日本も利益を得た。お互いそうした認識をもって、もう一度相互信頼を構築していくべきだ。

 最後に、今後の相互信頼は何をベースに行うべきか。今後中国は市民社会に入っていくが、一般市民が一番関心を寄せているのは、「島」の問題でも歴史問題でもない。いかに現在の生活水準を高めていくか、安全安心の生活をいかに維持していくかである。そこで、少子高齢化の問題、食品の安全問題、安定した社会の作り方といったところでは、日本に大いに期待するだろうと思う。

 日本は、こうした部分をもっと中国に紹介したらどうかと思う。と同時に、中国が経済大国になることで日本が不利益を被ることはなく、中国を冷静に正しく評価していただきたい。これにより、中国と日本は再び相互信頼の道を歩むことができると期待している。

【会場より】

・   これまで中国の人口問題、一人っ子政策等について研究してきた。日本の少子高齢化は先進国の中でも際立っているため、もっと具体的に中国と交流を進めることができればと考える。

・   藤沢市と雲南省昆明市は、中国国歌の作曲者である聶耳の誕生の地と逝去の地というご縁で友好都市を締結した。湘南日中友好協会は、ホームステイ等を通して交流を進めている。こうした民間の地道な交流を続けることで、少しずつ状況は変化していくのではないかと思っている。

・   いま中国は「都市化」に力を入れているが、これは価値観の大きな変化をもたらす。これには、「地方と地方の結びつき」や「農村の近代化」という側面もあるが。日本も同じような経験をしてきているので、この分野において交流することは非常に重要ではないかと思う。

・   日本の報道について、現場の人間はいろいろと努力しているが、マーケットによる一種の規制があり、自由な市場であるはずが、市場の消費者を意識することによって、いつの間にか市場に引きずられていくという状況がある。

・   北京や上海等の大都市ではなく、雲南や新疆等の辺境地区を訪問する訪中団を組織してきた。普通の日本人が実際に中国へ行って、その広大さ、多様性を知ることが大切であると考える。

・   民間交流が大切であることは間違いないが、今は、それを促す政治家がいないことが問題である。

・   青少年交流などの人的交流については、(中国の)政府からストップなどといった指示はない。運営側に、何か起こったら危険だというムードがあるだけだ。中国の政府はこれから各分野の人的交流、青少年交流をいっそう推進していくつもりで、今後は回復するだろう。

・   中国の中小企業は日本との経済交流を切望している。

<司会者まとめ>

 このシンポジウムでは、おおよそ次の5点についてコンセンサスを得られた。

1.「島」の領有権の問題により日中関係が悪化している事態を大変憂慮しており、速やかに平和的話合いにより解決すべき。

2.領土の問題で日中双方の主張が異なっているのは事実であるが、領土問題は存在しないとの態度を続けていては、話合いはできない。両国ともこれまでの主張に固持せず、なるべく早く話合いのテーブルにつくことを求める。

3.話合い解決が実現する前には、明日にも双方が衝突する可能性がある。万が一、偶発的なトラブルが起こった場合の解決のメカニズムを早くつくるべき。

4.「島」の問題はなかなか解決しない。だからこそ民間交流が大切であり、現に民間交流は進んでいる。「民を以って官を促す」ことが重要。

5.文化、学術の交流の重要性と必要性が高まっている。少子高齢化、都市化など日中協力の可能性をさらに追求してゆくべき。

 その他、マスコミの報道のあり方、外交文書を公開して情報を共有すべきなど、将来的な大きな課題が出された。

 こうした民間の相互交流、日中間の討論を拡大させることによって、私達の力はささやかなものではあるが、平和的解決への推進力になればと考える。

以上

(写真・編集協力:人民中国雑誌社)