現地から見た韓国・朴大統領「心信の旅」  中韓関係の安定は対日関係修復の兆しか

6月27日から30日までの朴大統領の訪中に関して、日本では中韓両国の対日政策の強化的な側面が強調されて報道されている。だが、子細に見れば両国は対日関係を改善したいとうシグナルも発している。(在北京ジャーナリスト 陳言)

中国人の親近感は
30年前の北朝鮮から韓国に

 

 中国で50歳以上の人なら、テレビで聞く韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の中国での発言は、三十年前にラジオ放送やニュース映画から流れる北朝鮮の金日成主席や金正日総書記を連想せざるを得ないだろう。金家親子とも非常に育ちがよく、体がしっかりしている。当時まだ半ば飢えていた中国人には、羨ましく思われていた。

 今の朴大統領は、どちらかと言えば、ほっそりしており、そのスタイルは現在の中国の若者にうらやましがられる。中国人の朝鮮半島に対する親近感は、30年前の北朝鮮から、現在ではすっかり韓国に移り、「鮮血で結ばれた友情」の中朝関係から、今日の「心信」となっている中韓関係が主流となっている。

 日本のメディアは、中国の一般市民のこの心情の変化をどこまで捉えていただろうか。日本の一部のマスコミは、朴大統領が日本を牽制するため、あるいは中韓が結託して日本を排除するような外交をしているかのように報道し、中韓がこれから日本をも巻き込んで、しっかりと東アジアの関係作りをやろうという堅い決意を、どこまで捉えていただろうか。71日に日韓の外務大臣が会談をしたが、これから中日間の政府交渉も始めていくという変化を、はたして無視していいのだろうか。

 中国内陸部に行き、街にポツンポツンと出ている韓国メーカーの広告などを見ると、30年前の日本の進出を思い出す。しかし、今や日本の広告はほとんど消えている。携帯電話から自動車まで、韓国メーカーは中国に食い込んでいき、後発なのにここまでできている。中韓の経済関係は緊密になっているが、相互理解のための「心信」という言葉は、韓国から積極的に提起されたもので、現代中国語の中にはない言葉であるにもかかわらず、すっかり中国市民の心に届いている。

 朴大統領と同じ時期に中国を訪れている日本の政治家がいた。鳩山由紀夫元首相だった。領土問題についての発言は日本のマスコミから厳しく批判され、日本には彼を理解する声は皆無のようだ。日本の現政権が掲げる「価値観外交」、「自由と繁栄の弧」以外に、これから日本の対中国発信は何があるのだろうか。

627日から30日までの朴大統領の訪中は、いろいろな意味で中韓関係、さらに中日韓関係に大きなインパクトを与えている。それは経済における中韓連帯の強化だけでなく、むしろ日本との関係を新たに作りだそうとしている。そのなかには日本のマスコミが強調している歴史問題から来る不信もあるが、それを乗り越えて東アジアでのFTAなどの地域連帯を作っていこうとする決意も忘れてはいけない。

かつての北朝鮮首脳以上の
厚い待遇で朴大統領を迎える

 

2012年現在、中日間の貿易高は、3336億ドルであった。中韓首脳は一年半後の会談の際、「2015年に中韓の貿易高3000億ドル目標を実現するために、両国の貿易を持続的に拡大していく」と、しっかりとその決意を表明した。

 おそらく2013年の中日貿易高は12年より少し減り、中日政治関係の好転が見えなければ、14年か15年には3000億ドル台を下回る可能性もさえある。国民経済規模が日本の四分の一か五分の一しかない韓国の対中貿易高が、日本を上回っていくかもしれないのだ。貿易がある一国との間に偏り過ぎてはいけないことをさておいたとしても、中韓貿易の想定するレベルを中日貿易にあてはめれば、本当は1兆ドル以上あってもおかしくなく、今の状態はむしろ異様に映る。中日経済関係も悪化していることは間違いなく、これほど焦眉の急となっている問題は他にあるだろうか。

 テレビに映った朴大統領が乗っている迎賓高級車は、いつものベンツではなく、国産の「紅旗」ブランドだった。それ以上に特徴的だったのは、6台のオートバイに守られていたことだ。これはかつて金日成主席や金正日総書記も受けられなかった待遇だ。

 「中韓は、互いに友好隣国であり、重要な経済協力のパートナーである。中国は13億人の人口を抱える発展途中の大国であり、近代化を実現するためにはどうしもて内需を拡大しなければならない。中国の経済発展と産業構造の転換は、中韓経済協力に大きな空間を提供している。我々双方はこのチャンスを掴んで、技術、市場、人材などの面での相互補完をして、協力を深めていこう」と、李克強首相は強調した。

 朴大統領はすぐ、「韓中は経済を発展させ、民生を改善していくことに直面している。我々は両国のすべての分野での実務的な協力を強化し、中国中西部の投資を拡大していきたい。できるだけ早く韓中の自由貿易協定を結び、両国や地域の経済発展をいっそう推進して、両国と地域の人民の幸せのために努力する」と答えた。

 日本のアニメ、映画、文学、建築などは中国の隅々まで浸透しており、韓流はそれと比べてまだまだ浅いが、「中韓人文交流共同委員会」をこれから設立し、副大臣クラスがその代表を務め、中韓の文化交流をこれからどんどん深めていくという。

 名門・清華大学では、朴大統領は中国語を流暢に操り、中国文化が自分自身に与えた影響などを語り、その発言の一字一句が大学生の心に染み込んでいたようだった。多くの人は中韓の経済文化交流はきっと深まっていくと思っている。金日成主席や金正日総書記は中国の民衆に中国語で語りかけたことはなく、朴大統領は金親子以上の影響力を中国市民に与えている。中国の国民は北朝鮮に対する関心をますます失っていくが、ひるがえって日本の政治家は、中国において朴大統領以上の発信力があるだろうか。

朝鮮半島の非核化と
対日関係改善へのシグナル

 

 朴大統領の訪中において、両国関係以外に、朝鮮半島問題、東アジア(日本)についての話し合いは、もっとも重要である。朝鮮半島の非核化は日本も賛成しており、早く日本との関係を改善していきたいというのは、中韓の共通した気持ちである。ただし、日本のマスコミはむしろ歴史問題を強調して、こちらで見ていると、あえて中韓からのシグナルを無視しているように映る。

 日本の報道を読むと、中韓首脳が話の中で北朝鮮を名指しして非核化に関する発言をしたか、しなかったかに注目している。中国の読者から見ると、それは非常に理解しにくいことだ。中ソが厳しく対立していたときにも、中国はソ連を名指して批判したことはない。公式の外交文書には「修正主義」「新ツァーリ主義」という表現こそ出てくるが、ソ連という国名は出なかった。対日でも同じである。日本との不愉快な関係は1年近く継続しているが、中国の指導者がこうした首脳会談で、直接に日本を名指して批判したこともない。

 北朝鮮は一応まだ中国の盟友であり、そこを名指しして非核化せよなどと、中国が言うはずはない。韓国が要求するのは、同じ民族、同じ半島に住んでいる住民なので、それは自由である。

 「歴史とそれによる問題で域内国家間の対立と不信が深まっている不安定な状況に憂慮を表明する」と、中韓首脳は共同声明で言っているが、日本のマスコミはすぐに、これは日本を牽制するものだと解釈する。「従軍慰安婦」問題、「侵略」の国際的な定義についての議論、村山談話の見直しなどは、中国と韓国だけが敏感なっている問題ではない。米国などからも、日本に対する疑問の声は出ている。

 中国の世論では、共同声明が「日中韓首脳会談の年内開催に共に努力する」と明記したことに注目している。7月の参議院選挙、そして815日に安倍内閣の主要閣僚が靖国神社をさまざまな形で参拝し終えたら、中日韓の関係回復を本格に提起するだろうと中国の日本問題専門家は見ている。

 今回の朴大統領の訪中は、経済だけでなく、朝鮮半島の非核化、今年下半期における中日韓関係作りに寄与するという点で、大きく評価できると筆者は思う。これから中韓間の外相同士のホットラインも開通する。大臣クラスの戦略対話も年に1回から2回に増やし、中国国務院で外交を担当する責任者は韓国総統府安保室長との対話体制も作られている。中韓関係が全面的な深化するなかで、ブルネイで開かれているASEAN+中日韓外相会議において、71日には日韓外相会談が開かれた。少しずつとはいえ、東アジアの関係回復の兆しは出ている。これは歓迎すべき変化である。 

Diamond Online 2013年7月2

http://diamond.jp/articles/-/38228

(出典:7月2日付『ダイヤモンドオンライン』)