中国を訪問した『日中未来の会』は5月31日午前、北京市内で、中国社会科学院の陶文釗・元米国研究所副所長から「中米関係と釣魚島(尖閣諸島)問題」をテーマに、約1時間にわたり講演を聞き、それをもとに質疑応答を行った。陶氏は著名な米国研究者であり、中国のマスメディアで中米関係について積極的に発言している。ここに陶氏の講演要旨と質疑応答を抄録する。(文責・横堀)
陶文釗氏の発言
私はまずオバマ政権について3点、述べたい。第1はオバマ政権になってからの中米関係の大きな流れについて、第2は米国の戦略の中心が東へ移った、つまりアジア回帰について、第3は、新興大国としての中国と米国との「新型の米中関係」についてである。
しかしオバマ政権は、発足したときから良好な関係にあった。中米は対等な対話を行ってきた。呉邦国・全人代常務委員長の訪米に続いて2009年11月にはオバマ大統領が公式に訪中し、中米共同声明が発表された。
この共同声明で重要な見方が示された。例えば米国は(大陸と台湾の)海峡両岸の平和的対話を積極的に推奨する、政治、経済、その他の分野での対話を積極的に行うことを米国は支持することを明らかにした。また、共同声明の半分以上を割いたのは、中米二国間の問題ではなく、地域問題やグローバルな問題についてであり、金融やテロ、大量殺傷兵器の拡散、地球規模の気候変動,感染症対策などが含まれていた。
しかし2010年になると、中米関係は急転直下、悪くなった。1月下旬、オバマ政権は、台湾へ武器を売却することを決定した。これは2008年10月に前政権のブッシュ政権が決定した160億ドルという武器売却が、膨大すぎるため、その半分を次期政権に残しておいた分を売却するものであった。また2月中旬、中国の旧正月5日、オバマ大統領はダライ・ラマと会見した。さらにグーグル事件も起こった。
2010年はこうした2国間関係だけでなく、地域的な衝突も影を落とした。東北アジアにおいては朝鮮問題だ。3月26日、韓国の天安(テンアン)艦が魚雷によって撃沈された。米国と韓国、オーストラリアの共同調査によって、これが北朝鮮によるものと突き止められた。しかし中国やロシアは、「スモーキングガン」(弾を撃って、煙を出している拳銃)を突き止めたわけではない、と主張した。この年の9月、国連安保理で激しい討論がおこなわれ、採択された議長声明は中国も韓国も満足する結果が得られた。そして韓国と米国は、47回にわたり、共同または単独で、朝鮮半島付近で軍事演習を行った。これは一つの演習が終われば次の演習が始まるというように絶えず演習が行われることを意味していた。
7月、米国の空母ワシントンが黄海で軍事演習を行うという話が持ち上がり、中国はこれに強く反発した。11月23日、北朝鮮は韓国の延平(エンピョン)島に対し、共同演習中の米韓軍をターゲットに砲撃を行い、2人の民間人と2人の軍人を殺害した。当時、朝鮮半島の情勢は非常に厳しく、すぐにでも戦争が起きかねないという情勢にあった。11月に北朝鮮は、ウラン濃縮施設を所有していると公式に公表した。
また米国は東南アジアにおいても、南海(南シナ海)での中国と周辺諸国との島をめぐる領土紛争に初めて介入した。2011年7月23日、当時アセアンの議長国であったベトナムのハノイで、ヒラリー・クリントン国務長官は、不意打ちとも言える講話を突然発表した。これは米国による南海問題での初めての態度表明であった。
中米間はクローバルな、気候変動などの問題でも対立した。1979年に中米が国交正常化して以来、1年たりとも何もトラブルがない年はなかったが、それにしても2010年は、多くの二国間や地域的問題、グローバルな問題で、これほどもめた年はなかった。当時、中米関係は落ち込み、重苦しいムードに包まれていた。中米関係は新たな冷戦の再来、あるいは新しい冷戦の開始という人さえいた。
しかし中米両国は、多くの分野で共同利益を有している。オバマ大統領は胡錦濤主席の訪米を促し、胡主席は2011年1月、米国を公式訪問し、この訪問は成功し、中米関係は修復されたように見えた。その訪問で両国のトップは、中米両国が相互尊重、平等互恵、戦略的な対等な関係の構築という共通認識に達した。
2点目の「米国の戦略の中心が東へ移った」、つまり「リバランス」「アジア回帰」について話を移そう。
米国の新政権は発足するとすぐ、前政権の成果や過ちについて点検するが、オバマ政権もその例外ではなかった。検証の結果、オバマ政権は、前政権が中東に力を入れすぎ、2つの戦争を起こしたのに反し、アジアをおろそかにしすぎたとの結論に達した。例えば、ライス国務長官は東南アジアをおろそかにし、アセアンの会議を2回も欠席したが、その間に中国がこの地域に力を伸ばした。
その結果オバマ政権は、戦略の中心を大西洋から太平洋に、西から東に、中東からアジアに移すという結論に達した。こうした新戦略に転換するには、その他の背景もあった。それは世界的に見れば、富やパワーが西から東へ移りつつあり、近未来においてアジアは世界の経済成長の大きなエンジンとなり、活発化するエリアになるという認識である。
当時、米国と欧州の間には経済発展の潜在力が大きくなく、米国とアジア太平洋の国家には大きな潜在力があった。米国にとってもっとも大きな脅威はアジアにあった。それは2つの核開発を進める国であるイランと北朝鮮であり、もうひとつは勃興する中国の出現である。
こうした政策の転換について米国の官僚はいつも「これは中国に対するものではない」と言い訳をしたが、我々は「此地無銀三百両」(隠すより現わる)と笑って言ったものだ。「100%ウソだ」ということだが、私は正直、まったくのウソではないだろうと思っている。それが5割か6割か7割か、中国の学者の間でも諸説がある。
戦略の中心を東に移すことは、包括的なものであり、その中の重要なものは軍事面での移転である。2011年に開催されたシャングリラ会議において米国の国防長官は日米の海軍力や空母や潜水艦の配置などについて詳細に説明した。軍事力以外にも経済政策や価値観外交についても克明に説明した。
経済分野については、TPPの問題がある。2009年と2011年の首脳会談において中国は、地域的経済統合について開かれた態度で臨んでいると表明したが、米国は安心して歓迎することはできないという態度だった。アジア地域においては、3つの枠組みが存在している。アセアン、アセアン+3、交渉中の日中韓のFTA。いずれも米国は入っていないため、米国は排除されるのではないかと危惧している。
その対抗措置として米国が打ち出したのがTPPである。私は米国の大使館員と話したときに「TPPの基準をクリアーできる途上国があるだろうか。先進国でさえ難しい」と指摘したことがある。
米国は「中国がTPPに入るのはいつでも歓迎」と言っているが、オバマ大統領はウラジオストクで開かれたAPECで「中国はルールを守れ」と述べ、2012年2月、習近平副主席が訪米した際にも「China must play by rule」と強調した。
米国はアジア太平洋地域で、価値観外交を大いに展開した。ヒラリー・クリントン国務長官は、モンゴル、カンボジア、ミャンマーなど中国の周辺国を訪問し、「民主化を成し遂げた」と激賞した。米国のそうした新戦略は、中国の周辺情勢、アジア太平洋の安全保障に影響を及ぼしている。しかし、その戦略の実施には、制約要因もある。米国は中東情勢からは、まだ足を抜け出せないでいる。アフガンについても終わらせることができない。数日前、オバマ大統領は国防大学で「テロとの戦いは間もなく終わる」と宣言したが、宣言しても終わるわけではない。2014年末までに米軍はアフガンから撤退するが、撤退後、どうなるかは誰も予言できない。おそらくタリバンが息を吹き返すのではないか。
何よりも足を引っ張る制約要因は、米国が抱える債務だ。現在米国は16兆ドル以上の債務を抱えており、これは米国のGDPを上回る数字だ。オバマ大統領もヒラリー・クリントン国務長官、それの現在のケリー国務長官もみな、これだけ大きな債務は安全保障を脅かすものだと述べている。
私はこう思う。米国の戦略中心の東への移転は、米国に長期にわたる戦略ではないだろうかと。次期の大統領が、例えば共和党の大統領が誕生したとしても、引き続きこの政策をとって行くだろう。表では明言しないにしても、この政策は続けるだろう。これから将来、数十年にわたって米国にとっての脅威は、アジア太平洋地域にあり、同時にチャンスもまたこの地域にある。脅威とチャンスが併存しているのが、アジア太平洋地域である。
中国が打ち出したこの新しいコンセプトに対し、米国も積極的な反応を示している。3月7日、ヒラリー・クリントン氏は、ニクソン大統領の中国訪問を記念して行ったシンポジウムで「2012年は尋常ならざる年であった。米中両国は、競争しながら協力する新しいモデルとなることで合意した」と述べた。
3月11日、中国の全人代開幕中に、米国の国家安全保障補佐は「米国は、中国の習近平、李克強という新しい指導者と手を携えて、これまで培ってきた中米関係を踏まえてさらに関係を発展させて行く用意がある」と語った。昨年の18回党大会で,中国は「新型の大国関係」という概念を、米国に限らず一般化させた。すなわち中国と大国の関係、すなわち中国とロシア、中国とEU、中国と日本、中国とインドなどをみな「新型の大国関係」と規定した。
しかし私は中米の「新型の大国関係」はやはり特別な意味があると考えている。第1に中米両国は、その歴史、文化、伝統、政治体制、イデオロギーなどすべての面で大きく違うからである。第2に、中米両国はまぎれもなく世界の2大大国である。米国は現在、唯一の超大国である。現在の国際秩序を打ち立てるにあたって他の国が代替できない役割をはたしている。中国のGDPは昨年、米国の52%になった。さまざまな予測が行われているが、もっとも楽観的な予測はIMFの予測だが、2015年あるいは2016年に中国は米国のGDPを抜くであろうとしている。私はそれほどは楽観していないが、今後10数年内には中国のGDPが米国と同じレベルに達すると見ている。
しかしそれが実現したとしても、中国と米国との格差は相変わらず存在するだろう。まず総合的な国力において、米国は依然強力である。米国は決して衰退しているわけではない。中国が上昇しているので、その格差が縮小しているのだ。相対的に格差は縮まっても、絶対的な格差は依然存在する。経済や軍事においての格差は今後20年から30年間、相変わらず存在する。50年経っても中米の格差は縮まっては行くが相変わらず存在するだろう。100年後に中国はやっと今の米国のレベルになるのではないか。
しかし中国と新興諸国との格差は大きくなっている。中国はロシアやインド、ブラジルと差をつけている。こうした国々のGDPは中国の3分の1程度にしか達していない。あるインドの学者によると、1990年代、中国とインドのGDPはほぼ同じだった。しかし今、インドのGDPは中国の3分の1に達していない。
そのため中国と米国の関係は、ますます「老大」(総領)と「老二」(次男)の関係になっている。こうした関係はきわめて危険である。なぜなら米国は、二番目をたたくという悪い伝統があるからだ。ロシアが二番目だったときもそうだったし、日本が経済で二番目だったときもそうだった。皆さんは1985年のプラザ合意を覚えているでしょう。そのため中国と米国の「新型の大国関係」に対して私たちは、今後、非常に慎重に対応していかなければならない。
しかしこうした「新型の大国関係」にはおそらく基礎があると考えている。これについて3点述べたい。
まず時代という角度から見ると、現代は平和と発展を重んずる時代である。だから大国間で大きな衝突や戦争が起こる可能性は、17世紀の民族国家形成以来のいかなる時代よりも、もっとも低いと見ている。またグローバル化は、確かに国と国との関係を大きく変えた。国と国とは互いに依存し合っている。これが中米、中日関係などの二国間関係のあり方を変えてしまった。中米両国は経済的に切っても切れない関係にある。互いに相手から離れることができない。また言い換えれば、いずれの国も相手を排除すれば、リスクを負うことになる。
中国はこれまで32年間、国際的な枠組みの中で勃興してきた。だから中国は、現在の国際秩序の参画者であり、擁護者である。平和的に発展するという方針は中国の国策である。実際、中国は平和でない手段で発展をしようとしても、それは不可能である。時代がそれを許さないし、中国にはその条件がない。そうしようとしても中国は海外に軍事拠点はないし、同盟国もない。我々は戦略的な中心をまったく持っていない。
2005年9月、ブッシュ政権のゼリク国務次官は「中国はこれから国際社会の責任あるステークホルダー(STAKE HOLDER)になるだろう」と述べた。これに対して、キッシンジャー元国務長官は「この発言は、米国が中国に対して国際システムの特殊なメンバーになってほしいと声をかけ、誘っているに等しい」と評した。
米中の「新型の大国関係」の構築の道のりは平坦ではない。しかし両国は、今後、長期にわたり話し合い、絶えず共通利益を求め、違いを少なくし、協力分野を拡大し、トラブルを少なくし、両国の発展の方向を適宜、修正して行かなければならない。それは大変難しいことだが、展望は明るい。中国には「道路是曲折的 前途是光明的(道のりは険しいが、前途は明るい)」という言葉がある。この言葉は、中米の新たな大国関係に適応できると思う。謝謝。
問い こうした米中関係の中で、現在起こっている尖閣諸島(釣魚島)の問題は、どのように発展していくと思うか。
答え 非常に重要な質問だ。ついこの前、指導している博士課程の学生の論文を見たが、その観点は、この20~30年間、米国はずっと中国と日本の間でバランスをとってきたというものだ。ある時期、米国は中国を重視し、例えばニクソンショックのころのように、日本は大いに危機感を深めた。またある時期には、米国は日本を重視し、中国はざわついた。父親のブッシュ政権下ではアーミテージ氏やマイケル・グリーン氏ら日本通が日本重視を強調したが、息子のブッシュ政権で彼らが交代すると、中国はほっとするというように、中国重視と日本重視が繰り返されてきた。
中国と日本との間の釣魚島問題は、非常に複雑な問題だ。それは歴史と歴史認識、それにどう対処して行くべきか、にかかわる問題だからだ。しかし中米両国は、この島の問題を、両国関係の中で取り上げるべき重要課題にはしないだろう。
私は昨年10月、ワシントンを訪問し、国務長官に対し「我々は釣魚島問題で米国に対し難しい注文はしない。簡単なことだけだ」として次のように要求した。
1、米国のスポークスマンがこの問題で見解を発表するとき、少なくとも「釣魚島」と言ってほしい。あるいは「釣魚島、尖閣」と言ってほしい。それによってこの島に紛争が存在することを示してほしい。
2、米国は日米安保条約第5条をこの島に適用すると言うことにこれ以上触れないでほしい。つまり一度言えばよいではないかということだ。それを繰り返し言う必要はない。
3、米国は、島の問題についていかなる立場も有しないということだ。この問題は中日両国が平和的な手段で解決する。
中国政府の関係者はこうしたことを再三、米国に言ってきた。今、米国は、日米安保条約第5条をこの地域に適応することを繰り返し言うことはなくなった。しかし、中国が非常に反感を覚える言い方がある。ヒラリー・クリントン氏らが何回も言っているのだが、「米国はいかなる国もこの地域の現状を一方的に変えることは認めない」ということである。中国はこれには腹を立てている。
1972年、米国は釣魚島の「管理権」(施政権)を日本に移管したが、それは米国の一方的な行為であって、いかなる国とも相談していない。このため全世界的な範囲で、「保釣運動」が展開された。台湾の馬英九先生も,当時ハーバード大学にいたが、その博士論文で「釣魚島の領有権は中華民国にあり」と書いている。
中米関係は多くの問題があるが、島の問題は、中米関係の中で取り上げるべき最重要課題とはしないであろう。
問い 中国のGDPの成長が次第にダウンすると予測されているが、成長にブレーキをかける要因は、大きな格差や少子高齢化、医療保険などの膨大な支出、地方政府の債務の増大などがあげられるが、そうした問題をどう解決して行くのか。具体的な対策は?
答え その通りだと思う。過去32年間、中国は大きな発展を遂げてきたが、さまざまな問題が残っている。「中等先進国の落とし穴」という言い方がある。しかし私は、中国の発展については自信を持っている。なぜなら中国は東部と西部のアンバランス、農村部と都市部のアンバランスと言った問題がある。全国平均の一人あたりのGDPは5000ドルだが、東部先進地域ではすでに1万ドルを超えている。浙江省はすでに2万ドルだ。しかし、西部の貴州省や寧夏回族自治区などは2000ドル、3000ドルしかない。大きなギャップが存在している。立ち遅れた西部や中部の経済発展が東部のレベルに追いついたら、中国はちょうど「中等先進国」のレベルに到達するのではないか。
しかし私たちが警戒すべきは、中国は製造業の大国であり、世界の工場になっていて、家電でも石炭、鉄鋼でもあらゆるものが生産過剰になっていることだ。これは解決しなければならない大きな課題だ。
中国の最大の課題は「城鎮化」であるという。李克強総理の博士論文は「城鎮化」であった。
問い 間もなく習近平主席がオバマ大統領と会談するが、中国は何を達成したいと期待しているのか。
答え 米国のオバマ政権は2期目を迎え、習近平政権は1期目である。まだ会っていない。中米のトップ会談は、G20やAPECなど年に何回も行われている。しかしまだ中米トップ会談が行われていないので、中国も米国も早く開催するよう望んでいる。話し合わなければ二国間関係に影響だ出ることを心配している。中米両国のトップ会談は、リラックスし、虚心坦懐に話し合うという伝統があるが、具体的な問題というより、それぞれ自国が抱えている問題や期待を率直に話しあってきた。ニクソン大統領が言ったように「トップが話し合うのは哲学であるべきだ」ということだ。つまり世界をどう見るかである。今の世界はどうなっているのか、その中で中米関係をどの方向へ持ってゆくのか、中米二国間関係の位置付け、などについてとことん話し合う場にしなければならない。だから、具体的問題でこと細かく話し合うのではない。北朝鮮の核問題や南中国海、釣魚島問題などでどうなるかと記者たちが尋ねるが、そうしたことよりも、大局の立場から長期的な視野で話し合うのではないかと思っている。
問い 釣魚島問題が、中米間の重要な問題にならないということは、逆にいえば中国が米国にこの問題解決のために何かを依頼することはない、ということか。あるいは中国が軍事的にこの問題を解決することはないということか。そうであれば、どのようにして今後、この問題を解決するつもりなのか。他の第3国に依頼するとか、国際社会に訴えることを考えているのか。
答え 多分、それに満足させる答えはできないだろう。私は釣魚島問題の会議には参加していないからだ。しかし、断言できることは、中国が米国の力を借りてこの問題を解決するよう要請することはないということだ。最良の方法は、米国は関与するな、ということだ。中日両国は、平和的な話し合いで自ら、この問題を解決すべきだ。
問い 現在、日中関係は最悪の状態にある。これは日中両国の間だけでは解決できる状態にはない。なぜなら、日米安保条約によって日本の自衛隊は米軍との上下関係で、密接に連携している。もし釣魚島の近くで中国と日本が衝突するようなことがあれば、米国は関係ないということにはならないのでは。
答え 私は個人的には、日米安保条約の枠組みは、日本と中国が二国間で釣魚島問題を解決する障害にはならないだろうと思う。なぜなら中国は武力でこの問題を解決する意思はないからである。中国がもし軍事力でこの島の問題を解決したいと明言するのなら、日米安保条約が机上に乗って然るべきだが、中国はまったくそういう意思はないと考えている。
問い 6者会談(6カ国協議)は、これまで朝鮮半島の問題ばかりを取り上げてきたが、日中関係の問題を取り上げても良いのではないか。
答え その質問は理解できる。過去にもそうした試みはあった。かつて米国の国務次官補がまったく同じ話をしたことがある。6者会談は、最初は北朝鮮の核の問題で立ち上がったわけだが、東北アジアの安全保障全体を取り扱うべきだ。あるいは朝鮮半島の非核化をどう実現し、その方向へ向け進展させることができれば、その成果を踏まえて、東北アジアの安保の枠組みに多くの国が参加するよう格上げすることも考えうる、と多くの学者が考えている。
問い 中日関係は「戦略的互恵関係」といわれてきたが、現在、あいまいになってきている。中米関係の専門家として、日中間のこうした問題をどうみているか。
答え 中日関係も、つまるところ「新型の大国関係」になると思う。中日両国が4番目の政治文書に盛り込んだ内容と決して矛盾しない。今、日本との間で「新型の大国関係」と言えない主な理由は、釣魚島問題で対峙しているからだ。「新型の大国関係」というように言い方を変えても、現状の問題を解決することはできない。しかし最終的に中日両国は「新型の大国関係」になると思っている。
問い オバマ大統領の国防大学での演説は、何年間も熟慮した結果行われた意味のあるものだと報道されている。米国が、恒常的に戦争状態を続けるという政策をやめるということと、アジアに重点を移すということはどういう関係にあるのか。
答え この2つは関連がある。オバマ大統領の演説で対テロ戦争の終息を宣言したが、12年前に別の大統領がテロとの戦いを正式に宣言したわけだから、現在の大統領によってその終息を宣言しなければならないという必要性があった。米国の戦略との関係では、イラク、アフガンの戦争で3兆ドル以上の直接的な軍事費を使った。間接的な支出はもっと多い。またイラクでは米軍人4800人以上が死んだ。アフガンでも1000人以上が生命を落とした。
この戦争は勝ったとも言えないし、負けたとも言えない。しかし5割以上の国民が反対している。オバマ政権は発足後、テロとの戦いをあまり強調してはこなかった。もちろんテロと戦わないということではないが……。
問い 日本がGDP2位の時代、米国の中には、ソ連のミサイルよりも日本の経済力が米国にとって脅威であるという人もいた。日米安保条約があるにもかかわらず、日本は米国に対し、きわめて慎重に対応した。冷戦終結後の東欧諸国が混沌としたときに、東欧の民主化と経済的安定を求めてのさまざまなプロジェクトに日本の民間と政府が関与したことが、GDP2位の国のマナーとして米国に評価された。日本の対外援助も、米国の意向を踏まえての援助をかなり行った。これらによって日本は、米国の苛立ちを鎮めることができた。中国と米国は、安保条約がないのだから、中国はより慎重に米国に対応しなければならないと思うが,どうか。その意味で民間レベルのプロジェクトによって交流する姿勢を見せた方が良いのではないか。
答え 良いコメントに感謝する。中米の、民間レベルのチャンネルはかなりある。ブッシュ政権の時代は60余りだったが、オバマ政権時代の現在は90以上にのぼる。また、従来からあるもののほか、米国の州と中国の省の、知事レベルの会談のメカニズムや人的往来のプロジェクトはかなり活発に行われている。