笈川幸司著『こうして僕は自分の生き方を見つけた』(東洋出版)

 教育という仕事は地味な仕事で、まして書籍にまとめても教育関係者以外は見向きもしないのが一般的だ。だが、この本はちょっと違う。

「朝日新聞」の『人』欄に掲載されたり、AERA『中国に勝った日本人100人』の一人に選ばれたりしたのでご存じの方もあるかと思うが、中国で「カリスマ日本語教師」と呼ばれる彼が逆境を乗り越え、最悪の状況から「這い上が」ってきた生きざまを綴った一冊だ。

 清華大学日本語科主任の馮峰教授は、「笈川さんは倦まず懈まず努力を重ね、いつのまにか一人前の、いえ、ずば抜けた『有名人教師』となりました。今の中国で、このような偉業をなせる外国人は、彼を除いて誰もいません。本書の出版が、人間同士の異文化交流に示唆をもたらしてくれるものと思います。」と、彼の人柄を率直に紹介している。それもそのはず、本書の中の人名は学生も含めて実名で、体験をもとに事実をありのままに淡々と綴っている。当時同じ北京で教師仲間として親しく接していた私でさえ、それらの学生の顔や一つ一つのエピソードは目に浮かんでくる。嘘も誇張もない事実である。

 その点で、こんな生き方もあるのかとおもしろく手軽に読め、また中国の大学生の生の姿を知ることができる上でも本書は貴重な記録だろう。強いていえば、「中国中央テレビの中の幸せ」ということばを4月の勉強会で講師から紹介があったが、同様にここに至る詳細な紆余曲折は語り尽くせていない点に物足りなさは感じる。その点は続編として、『日本語講演マラソン裏話』が後日出版されることをひそかに私は期待している。

 尚、本書は4月5日に発刊されたばかりで、店頭では目にすることは少ないが、お読みになったら感想をお聞かせいただければ幸いです。直接彼に届けたいと思っていますので、よろしくお願いします。(加藤志乃婦)

※笈川幸司 1970年4月20日生まれ。2001年7月に北京で日本語を教えはじめ、12年目。清華大学、北京大学で教鞭をとる。現在は、北京日本学研究センターで音声学を研究しながら中国全土555大学を巡って講演活動を行う「日本語講演マラソン」に挑戦中。著書に、日本語教材『笈川日本語教科書』(「筆者紹介」より)

関連サイト(出版社による本書の紹介ページ)

http://www.toyo-shuppan.com/koushitebokuha/