陶文釗氏講演の概要

この1年を振り返ってみると、中米間には確かに様々な問題が存在しているが、しかし、全体的にみれば、基本的には安定を維持している。

まずは両国首脳の会談。習近平主席の就任以来、習主席とオバマ大統領は毎年少なくとも1回は会談を行っている。今年9月に杭州で開催されたG20での会談は両氏の8回目の会談であった。

2013年6月、米カリフォルニア州サニーランドで新型大国関係について話し合った。14年11月のAPEC会議の際には、習主席はオバマ大統領を中南海に招いた。中南海で行われたこの会談を私たちは「瀛台会晤」(瀛台での会談)と呼んでいる。15年9月に習主席が米国を公式訪問した際のホワイトハウスでの会談は、「白宮秋叙」(ホワイトハウスでの秋の語らい)と呼ばれている。

今年9月のG20においては、西湖のほとりで5時間以上も会談し、二国間の、地域的な、及び世界的な重要な課題について突っ込んだ意見交換を行った。他にも多くの国の首脳と会談を行わなければならないところ、オバマ大統領との会談に5時間もの時間をとったのは、オバマ大統領が任期中おそらく最後の訪中となるからであり、両国の指導者は、オバマ大統領任期中の中米関係について総括を行ったのである。

この会談の後、中国側は会談の成果リストを作成し、『人民日報』のトップ全面で報じた。これについて私は、オバマ大統領の任期終了が迫る現在、中米関係は過渡期にあるため、中米関係の安定を維持したいという中国側の思惑があるのではないかとみている。中国には、「酒逢知己千杯少、話不投机半句多」(酒は知己に逢えば千杯でも少なく、話は気が合わぬと半句でも多い)という言葉がある。習・オバマ両氏が「知己」であるとまでは言わないが、少なくとも「話不投机」(話が合わぬ)ではないだろう。

中米協力の成果

今年、中米間の協力は様々な分野で成果を収めたが、二つのことについて話したい。

一つは気候変動問題。さきほど述べた13年から16年の会談において、気候変動問題は毎回話題となっている。中米の気候変動分野での協力は世界をリードするものであり、昨年、「パリ協定」の採択を導いた。今年9月3日、中米両国は杭州にて「パリ協定」を批准し、国連の潘基文事務総長に批准書を渡した。中米がいち早く「パリ協定」を批准し、批准書を国連に渡したことに、潘事務総長は大変喜んだ。

この気候変動分野での中米の協力は世界をリードするものであり、中米関係を支える柱にもなっている。

もう一つは世界経済の成長牽引。ご承知のとおり、今は世界的に経済状況が思わしくない。米国は杭州でのG20開催を支持してくれた。G20では、世界経済の成長をどのように維持するかについて具体的な措置をめぐって各国首脳が様々な意見を交わした。世界経済の安定、バランス、発展を図ることが課題であり、貿易・投資の自国保護主義に反対し、イノベーションを経済成長の原動力とするといったことが話し合われた。

このように1年を振り返ると、中米関係は概ね安定していたといえる。しかし細かくみていくと問題がないわけではない。

リバランス戦略

オバマ政権は引き続きアジア太平洋地域におけるリバランス戦略を繰り広げている。

米国は南海の問題をめぐり、フィリピンやベトナムなどを支援して中国に対抗するように仕向けている。また、航行の自由という名の下に、軍艦や航空機を南海地域に派遣している。昨年はB52爆撃機が南海地域に進入したが、米国側はこれについて、意図的なものではなく、悪天候により誤って入ってしまったと説明している。これだけでなく、米国は幾度も軍艦を南海のフィリピン側の海域に派遣している。

また、米国の軍艦は西沙、南沙の区別なく両方の地域に進入しているが、西沙は中国争う余地のない固有の領土である。一方、南沙は、フィリピンやベトナム、マレーシアなども領有権を主張している。

南沙諸島において、中国は確かに建造物や3000メートル級の滑走路を建設しているが、これは中国にとって必要なものである。第一に、自国の領土、領海を守るため。第二に、駐留兵士らの生活を守るため。第三に、航路の安全を守るため。第四に、南海における人道的な救援のため。

南海問題をめぐり、今年は突出した出来事が発生した。7月12日、フィリピンが提起した仲裁手続で仲裁判断が下されたのである。中国はこれまで一貫して、この仲裁には参加しないし、その結果も認めないという姿勢をとってきた。国際海洋法によれば、このような国家間の領土や帰属に関する問題について、仲裁裁判所は管轄権を有さないからだ。

仲裁を提起したときのフィリピンはアキノ政権であったが、仲裁判断が下されたときはドゥテルテ大統領に代わっていた。判断が下された後、米国は、これは法的拘束力を有するものだと言って中国に圧力をかけてきたが、実際のところは、中国がこの判断を認めることはなく、どうしようもないことはわかっている。しかも世界の多くの国が中国の立場を支持している。こうしたなか、米国の姿勢にも変化がみられる。7月中旬、ラオスで開かれたASEAN会議で、ケリー国務長官は王毅外相に対し、この仲裁判断は法的拘束力があるということを主張する一方、これから両国は緊張した局面に別れを告げて、話し合いを通じて平和裏に問題解決を図るべきだという話もしている。つまり、オバマ政権の中国に対する最低ラインは、「闘而不破」(闘うが破局しない)を原則としているものと思われる。

ドゥテルテ大統領が誕生し、その米国に対する発言は様々な物議を醸しだしているが、私個人としては、フィリピンと米国の同盟関係は非常に強固なものだと考える。アキノ政権のときは米国に依存しすぎ、偏りすぎて、フィリピンと中国との関係が悪くなっていた。そういう意味ではドゥテルテ大統領は米国と中国との間でリバランスを図っているといえるだろう。

先日、マレーシアの首相が訪中し、哨戒艇4隻を中国から購入することで合意した。これは中国にしてみればとりたてて騒ぐほどのことでもないが、米国は過敏に反応し、ドゥテルテ効果が発酵してドミノ倒しの状態を成していると報じた。

ベトナムもカムラン湾を米国にも中国にもロシアにも開放してバランスを取ろうとしている。

こうした様々な動きからわかるように、東南アジア諸国は実際のところ米国と中国のどちらかを選ぶという極端な決定をすることは望んでいない。中米の関係があまりにも良すぎて、両国が手を組んで東南アジアを支配することは望んでいないが、中米関係が悪化してどちらか一つを選ばなければならないという状況になることも望んでいない。

オバマ政権は残りあとわずかだが、リバランス戦略の推進に引き続き努力するだろう。カーター国防長官は9月29日、サンディエゴ停泊中の空母カールビンソン艦上で、リバランス戦略は第3ステージに入ったと宣言した。そして翌日、ハワイでASEAN10か国との国防相会合を開き、アジア太平洋地域において安保メカニズムを構築することを強調した。もちろん、この成果については今後の行方を見守る必要がある。米国はアジア太平洋地域に5つの同盟国を有しているが、この5か国の相互の関係は流動的で、NATOのような協調関係は構築されていないからである。

THAADをめぐる対立

今年の中米間のもう一つの大きな衝突と言えば、韓国のTHAADミサイル配備問題である。米国はかねてから韓国へのTHAAD配備を希望していたが、韓国政府は「3つのNO=米国からの要請も、協議も、決定もない」という立場をとっていた。しかし北朝鮮からの度重なる挑発行為を受けて、考えを変えた。

米韓のTHAAD配備決定に対して中国とロシアは強く反発した。中国はあらゆる外交手段を用いて強く抗議した。

THAADの迎撃高度は40~150キロであり、北朝鮮からのミサイルはそんなに高度が上がらないため、THAADを配備する必要はない。常備のもので十分である。したがって中国は、米国が韓国にTHAADを配備する本当の狙いは韓国や日本の米軍拠点を守るためだとみている。また、THAADレーダーの探知距離は1000キロから2000キロに渡ることから、中国の華北地域は全て含まれる。もし中国の東部から米国の西部に向けてミサイルを発射した場合、韓国のTHAADはアラスカにあるレーダー網より10分速くこれを検知することができる。つまり、THAADの配備は中国の防衛能力を失わせることとなり、米国は自国の安全を中国の安全を損ねた上で構築しようとしているのである。

今年、中国とロシアは合同でミサイル迎撃を想定した机上軍事演習を初めて行った。来年も行う予定である。米国のある代表団が訪中したとき、私は彼らに対して、米国は冷戦終結後3つの過ちを犯したと話した。第一にNATOを東に向けて拡張させたこと。これによって米国の戦略的利益が損なわれ、米ロ関係を破壊した。第二にイラク戦争。これは言うまでもない。第三に、今現在推進中のものであるが、東欧にミサイル防御システムを配備し、そして韓国にTHAADを配備する計画。前者はロシアをターゲットとしたものであってロシアとの衝突を招き、後者は中国をターゲットとしたものであって中国との衝突を招いた。これにより中ロが接近する口実を与えたのである。しかしながら、中ロは依然としてパートナーシップ関係であって同盟関係ではない。

朝鮮半島問題

私は9月下旬、ワシントンを訪問して様々なシンクタンクと話をしてきた。ほとんどの研究者が、中国の周辺では南海や東海の問題もあるが、朝鮮半島問題が最も深刻であると言っていた。南海や東海の問題はコントロール可能であり、先ほど話したとおり、南海の緊張状態は緩和しつつある。東海の問題、釣魚島(尖閣諸島)については、中日間の問題であって、よく見てみるとそこにはある種のコンセンサスがあり、暗黙の了解がある。一つは、島には手を付けない、つまり島には上陸しないこと。もう一つは、島から12海里外の航行は認めること。しかし北朝鮮の問題に関してはコントロールできない。今年は核実験を2回行い、何度もミサイルを発射している。何より、金正恩が次に何をしでかそうとしているのかが読めない。

オバマ政権は北朝鮮に対して「戦略的忍耐」政策をとってきたが、米自身もこれは失敗であったと認めている。中国も6者協議の再開などを提案しているが進展はない。

米の有名なシンクタンクが北朝鮮問題を研究する特別プロジェクトを立ち上げたが、意見は分かれている。中国は新しい考えを打ち出して二つの方針を主張している。一つは引き続き非核化を進めること。もう一つは朝鮮半島の停戦協定を平和協定に転じること。しかしながらまだそういった動きは見えず、きっかけも見当たらない。おそらくオバマ政権内ではなにも動きはないだろう。

中国の民主化に対して

中国の民主化については、米国はいま、それを口にすることができない状況にある。なぜなら、今回の大統領戦は米国の歴史上、例を見ないほどの混乱ぶりであるからである。互いの誹謗中傷ばかりで、政策議論はまったくない。

グローバル化は逆行できない流れだとは思うが、しかし今の世界は反グローバリゼーションが大きな勢力となっている。世界的に新自由主義が沸き起こった時代には民主化も大きな潮流であったが、今は民主化の波も引いているような感がある。

(文責・原 絢子)