日中は直ちに島問題について対話するべき

『日中領土問題の起源』著者・村田忠禧氏インタビュー

日中は直ちに島問題について対話するべき

『環球時報』20131015

 

【『環球時報』日本特約記者 孫秀萍】

 「日中関係は最悪の段階に陥ったと言われているが、こうした言い方は正確ではない。日中間の分岐点を過度に強調している」。『日中領土問題の起源』の著者である村田忠禧横浜国立大学名誉教授は『環球時報』のインタビューでこのように述べた。神奈川県日中友好協会の副会長でもある村田氏は、中国現代史と日中関係に関する研究に携わっており、『尖閣列島・釣魚島問題をどう見るか』(日本僑報社)等の著書がある。しかし、日中間の領土問題に関する村田氏の最新の研究成果は日本ではあまり注目されておらず、それどころか、日本政府の立場とは異なる見解が含まれているため、日本のマスコミから「黙殺」されている。

 『環球時報』のインタビューに応じた際、村田氏は目下の両国関係の敏感な話題を避けることはなく、「日本は日中間の島を巡る紛争が周知の事実であることをわかっているはずで、双方が事実を重視して、相手の声に耳を傾ける心を持たなければ平和的に解決することはできない」との考えを示した。

日本は「日中間の島を巡る紛争が周知の事実」であることをわかっているはず

『環球時報』:今年6月に出版された『日中領土問題の起源』は中国の読者から注目されています。中国人に最も理解してほしいことは何ですか。

村田氏:古くから、領土問題は愛国主義を巻き起こす手段とされてきた。気持ちを惑わされたり、扇動されたりしないためにも、冷静、科学的、平和的な態度をもって、友好の精神に基づき問題を解決することが非常に重要だ。事実を重視すると同時に、双方の見解が対立していることに注意して、自分(自国政府)の主張に耳を傾けるだけでなく、相手(相手国政府)の主張にも耳を傾ける姿勢を維持する必要がある。相手の主張に耳を傾けるということは、相手の主張に同意しなければならないということではなく、なぜ相手はそう主張するのか、その根拠は何かを考えることである。もし自分の主張こそが正しいという態度を固持し、それで相手を非難していたら、相手も同じような方法をとることとなり、問題を解決することはできないだろう。平和的解決を望むならば、双方は冷静さと客観性を維持しなければならない。この本の中で私が強調したのは、こうした姿勢、つまり事実を重視し、相手の声に耳を傾ける心を持つことである。

『環球時報』:釣魚島問題において、中日両国の主な相違点はどこにあるとお考えですか。日本側がいままで講じてきた措置にはどんな問題がありますか。

村田氏:日本政府は次のような立場をとっている。「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しない」

 これに対し中国政府の声明は、「釣魚島及びその附属島嶼は古くから中国の神聖なる領土であり、これには歴史的証拠や法的根拠がある」というものだ。日本政府のいわゆる釣魚島「国有化」について、中国は、中国の領土主権を損なう一切の行為を直ちに停止し、双方が確認した合意と了解に立ち戻り、話し合いによって紛争を解決する道に戻るよう強く要請している。中国の主張は明らかで、日本は領土紛争の存在を認め、両国が確認した紛争棚上げに立ち戻り、対話を通じて領土問題を解決すべきだというものである。中国の主張と、日本政府の領土問題は存在しないとする対応は「まったく異なる」ものと言えよう。

 実際のところ、日中間のこうした島を巡る紛争は既に周知の事実であり、(日本側が)独りよがりに「領有権争いは存在しない」と言っても、紛争存在の客観的事実を否定することはできない。「対話のドアは開いている」と言っているが、口先だけで終わらせず、本当にそう思うならば、島の問題を解決する対話を直ちに行うべきである。

釣魚島の日本領土への編入過程に問題」

『環球時報』:あなたの研究成果は日本のマスコミから黙殺されたとのことですが、それについてどうお考えですか。中日両国民は領土問題についてどう対応すべきですか。

村田氏:一国民として領土問題を考えるとき、国という枠組みにとらわれないことが、日本の国民にとっても中国の国民にとっても必要だ。「日本の国民であるから日本政府を支持しなければならない、中国の国民であるから中国政府の見解と同じでなければならない」といった考え方は正しくなく、むしろ危険である。国境を越えた国民間の相互理解と友好、共同の精神は、何よりも重要なものである。国の利益の保護という名のもと、事実を隠蔽し、真実をねじ曲げてはならず、常に客観、冷静、科学的な立場を維持し、他人の主張を鵜呑みにせず、自分の頭で考え、知識と知恵を増やす努力をしなければならない。

 このたび出版した『日中領土問題の起源』は、アジア歴史資料センター等で公開されている文書を真剣に閲読し、整理した成果であり、私の個人的な見解ではない。しかも、本書には十分なニュース価値があると思う。しかし日本の大手マスコミは本書について報道したがらない。推測するに、私の出した結果が日本政府の主張とは一致しないからだろう。もし本当にそうであるならば、日本の大手マスコミはメディアとしての職責と役割を放棄したと言わざるを得ない。

『環球時報』:中国メディアの一部報道において、あなたは、釣魚島は中国のものであると主張する日本の数少ない学者の一人だと言われていますが、この見方に同意しますか。

村田氏:私はこれまで一度も釣魚島は中国の領土であると主張したことはない。日本がこの島を日本の領土に編入した過程には問題があると指摘しているだけだ。日本は、日清戦争の勝利に乗じて釣魚島を沖縄に組み込み、秘密裏に獲得した。しかも、台湾の澎湖諸島と同様に、(日本は)1945年に「ポツダム宣言」を受諾した際に中国へ返還すべきであった。中国政府も、釣魚島は台湾の澎湖諸島と同様に、「ポツダム宣言」が受け入れられた結果、中国の領土に属し、中国に返還されるべきだと主張している。もしそうであるならば、1970年代より前、双方はいずれも事実を回避していた可能性がある。この点から見れば、日本政府だけでなく、中国政府も同じような態度をとっていた。こうした姿勢は正しくない。

 私は、「事実は事実である」ことを認める誠実さが必要だと思う。そうすれば、問題解決の平和の道を切り開くことができる。中国の一部メディアによる「村田は、釣魚島は中国の領土であると主張している」との報道は事実とは異なり、間違った紹介であるから、こうした紹介や報道をやめるよう望む。

『環球時報』:ご自身の釣魚島に関する主張により日本の右翼から何らかの妨害を受けていますか。

村田氏:右翼から妨害を受けたことはない。日本は言論の自由が保障されている。ただ、先ほど述べたように、研究成果が大手マスコミから黙殺されている可能性はある。私は民間団体での講演や大学の講義で自分の釣魚島に関する見解を述べているが、一度も妨害を受けたことはない。私の講演を聞いた人の多くは、私の見方、解釈に理解を示している。物事を理性的に考える人が日本にはたくさん存在するので、希望を失うべきではない。

『環球時報』:中日両国のメディアは、釣魚島問題による軍事衝突の可能性について注目したがります。日本の政府と国民は戦争が起こることを心配していますか。釣魚島紛争はどのように解決すべきだとお考えですか。

村田氏:これほど小さな島を巡る争いによって軍事衝突や戦争を起こすことは最も愚かな行為だ。両国のメディアは、こうした報道が商業主義による行為ではないか反省すべきである。釣魚島問題を解決する方法はある。例えば、中国が国際海洋法裁判所に訴訟を提起する。日本は海洋法条約の締結国であるため、中国が訴訟を提起すれば日本はこれに応じなければならない。また、両国トップの対話を通じて、「共同管理、共同開発」を決議することも可能だ。この問題を解決しようと思ったら、日中双方は多少なりとも歩み寄る必要がある。共同発展、ウィンウィンの観点から解決することが重要だ。

日本の首相は参拝すべきでない

『環球時報』:10月17日は靖国神社の秋季例大祭です。安倍晋三首相が参拝するか否かがまたしても中日関係に影響を与える話題となっていますが、この問題についてどう思われますか。

村田氏:歴史認識の問題が靖国神社問題によって矮小化されるべきではない。参拝するか否かに注目しすぎると、安倍首相はあくまでも参拝に固持し、国内の保守勢力の支持を得ることになるだろう。こうした保守勢力は、中国や韓国の圧力に屈してはならないと主張している。(日本の首相が)真に「積極的平和主義」を実現しようとするならば、当然ながら靖国神社を参拝するべきでない。

『環球時報』:中国人は、日本は侵略戦争について深い反省を行っていないと思っていますが、一部の日本人は、日本は中国に謝罪しすぎており、これ以上謝罪する必要はないと考えています。どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

村田氏:どうして歴史を重視するのか。それは、そこから教訓をくみ取り、同じ轍を踏まないようにするためである。また、歴史は、美しい未来をつくるための知識と知恵の源泉とすべきで、この観点からも歴史は重視しなければならない。歴史を重視することは相手にからむためではない。私も含めて、日本人の多くは1945年以降に生まれ、日本の侵略戦争を経験していない。そのため、なにかにつけ侵略の歴史を持ち出されることは適当ではないと考えている。ただし、今後過ちを犯さないためにも、いまの若い人は自ら、積極的に歴史を学ぶべきである。

『環球時報』:今後の中日関係をどのように見ていますか。

村田氏:日中関係は最悪の状態にあるとよく言われているが、実際のところ、両国関係にはこれまで何度も険悪な状況が生じている。まるで傍観者のように、日中関係は「最悪だ」と言うのは適当ではない。どうすればこの膠着状態を打開できるか、真剣かつ積極的に考えなければならない。両国は現在でも外交関係を維持し、経済や人的交流も途絶えていない。日中間の相互依存関係は一目瞭然である。

 私は、両国関係に問題が生じるとすぐに民間交流に影響が及ぶことを望まず、ましてや、民間交流が直ちにストップすることには賛成できない。わだかまりがあればあるほど相互理解が必要となり、交流を中断してしまったら相手を理解することができず、関係改善どころの話ではなくなる。国は国であり、民間や個人の交流をやめさえしなければ、平和的な対話、問題解決は可能である。

(訳・原 絢子)