環境保護で関係改善の突破口を

 横堀 克己

 4月4日、中国は清明節を迎えた。この日、人々は墓に詣で、亡くなった人を悼み、先祖を祭る。数年前から祝祭日になったが、今年は木曜日なので次の金、土曜日を振替休日とし、合わせて3連休となった。

「清明の季節、雨紛々」と杜牧はうたったが、4日の北京はスモッグに覆われた。しかし、5、6の両日は、青空が戻ってきた。暖かくなったのと、生産活動がとまり、車も少なくなったせいだろう。

 1960年代、70年代の東京や大阪の大気も、今の北京ぐらいだったと記憶している。牛込柳町の排気ガスのひどさや四日市公害など、高度成長に伴って日本も公害にずいぶん苦しんできた。

 その後、公害訴訟が起き、排出源の企業の責任が追及された。行政も規制に本腰を入れ、法の整備も進んだ。大都会が青空を取り戻すのに長い時間を要した。

 1972年、宇井純氏(当時東京大学助手)ら公害問題の専門家が訪中し、経済成長による公害の危険性について警鐘を鳴らした。しかし、当時の中国の当局者は「公害は資本主義社会の産物。社会主義の中国では起こりえない」と耳を貸さなかったのだ、と中国の友人は自嘲する。

 3月に開かれた全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)で、温家宝総理は最後の政府活動報告を行ったが、その中で「大気、水、土壌などの環境問題の解決」を今後の重点課題として提起した。この方針は、この全人代で選出された習近平国家主席―李克強総理の新指導体制に引き継がれた。

 習主席は就任直後、最初の外国の要人として米国のルー財務長官と会談した。そして最初の訪問国としてロシアに行き、プーチン大統領と会談し、中ロ共同声明に調印した。さらに南アフリカで新興5カ国(BRICS)首脳会議に出席、「BRICS開発銀行」設立で基本合意に達した。

 日本のメディアの多くは、こうした中国新体制の外交を「領土問題で日本を牽制するのが狙いだ」と解説した。しかし、共同声明などをよく読めば、中国が重点を置いているのは米中、中ロやBRICSとの「経済協力」にあることがわかる。何でもかでも「尖閣」に結び付けて論ずるのはミスリードである。

 それに引きかえ日本と中国の外交関係は依然として膠着状態にある。首脳の相互訪問は決まっていない。しかし、環境保護や公害防止で日中が協力できる空間は大きい。日本はそのための技術や資金を提供し、共同事業を推進すべきだろう。それが、日中関係改善の突破口となるに違いない。

出典:4月25日号『日本と中国』