大衆に近づこうとする習新体制

横堀 克己

 党の政治局員が出かける際には「随行者を少なくし、横断幕をやめ、大衆の送迎を手配しない」「交通管制を減らし、できるだけ道路の封鎖などをしない」。中央の承認がなければ「テープカットや起工式、祝賀会やフォーラムにすべて出席しない」「題辞や題字を書かない」……。

 これは、習近平体制が発足した直後に開かれた政治局会議で、全会一致で決まった「8項目の規定」の一部である。正式には「活動の作風を改善し、大衆と密接につながることに関する規定」といい、最高指導部と大衆との距離を縮め、人々に親近感を持たれることを狙っている。

 実際、習近平総書記は広東省深圳市を訪れた際、この「規定」に従って普通のホテルに泊まり、交通管制はせず、警備の武装警察は4人しかいなかった、と報じられた。

 こうした「規定」をわざわざ作らなければならないということは、逆に言えば、これまでの中国の指導部の「作風」に問題があったことを示している。中央の指導者が地方視察に行けば、大げさな歓迎式が行われ、長時間の交通管制が敷かれる。全国どこでも、記念碑や建造物の扁額に、指導者の揮毫や署名がある。習近平新体制は、こうした悪弊を改めるところから始めなければならないというのが現実なのだ。

 これに比して習近平体制が負わされた任務は、あまりにも大きい。18回党大会で胡錦濤総書記が行った政治報告で、「2020年までに、GDPと一人当たりの所得・収入を、2010年の2倍にする」ことが決まった。そのうえ、「政治体制改革を積極的に、かつ穏当に推進する」「低所得者の所得を増やす」「腐敗は容赦しない」なども今後5年間にやり遂げなければならない。

 そのためには、大衆の支持が不可欠であり、大衆の声を聴かなければならない。

 昨年から今年初めにかけて、広東省の週刊新聞『南方周末』の事前検閲問題が、記者と宣伝部の対立に発展した。私は1月8日に『南方周末』ビルの前に行ってきたが、警官が隙間なく立ち並び、市民の抗議行動を警戒していた。

 『南方周末』の読者は170万といわれ、全国各地で購読されている。ネットの言論も記者たちを応援した。こうした世論を考慮したのか、習近平総書記は9日、「今のやり方は混乱を広げているだけではないか」と懸念を表明したという。そして事前検閲は撤廃され、記者たちは処分を免れた。

 習近平体制が発足してからまだ3カ月。新体制の方向性が少しずつ見えてきた。

(出典:『日本と中国』)