天野真也・JETRO広州事務所所長のお話(概要)

JETRO広州事務所は2004年に設立された。当時、トヨタや日産が広州で合弁会社を立ち上げようとしていたり、広州の日本商工会では法人会員が毎月10社のスピードで増えていたりと、広州はとても元気であった。

広東省の経済規模は中国最大で、世界のGDPから見ても、インドネシアを上回り、メキシコに迫っている。しかし、深圳市のGDPは梅州市の7.3倍と、省内で大きな差が存在するため、今はインフラの整備に力を入れている。

 

今、紙面ではいろいろと騒がれている。人民元の上昇やコストの高騰、株価の下落等、中国経済はもう駄目だと言われているが、日系企業の活動を見る限り、確かに新規の企業投資は減っているが、既に拠点を構えている自動車メーカーを中心に、生産能力を拡大させる計画を立てている。

中国全体の日系自動車メーカーの販売状況は、2012年以前は順調に伸びていたが、2012年に反日デモが起き、トヨタは4.9%減、日産は5.3%減、ホンダは3.1%減とシェアを落とした。日系ブランド乗用車のシェアは、2012年には16.4%あったところ、2014年には15.8%に落ち、今年もなかなか回復していない。そのため、今は中国の人に合った車を研究開発する方向に向いている。

新聞でも言われているように、投資が減少し貿易の調子も悪いのも事実だが、自動車メーカーはそれぞれ生産能力を拡大しているのも事実である。しっかりと生産設備の増強をし、R&Dセンターなどを設立して巻き返しを図っている状況である。したがって、それに関連する自動車部品メーカーも生産量を拡大していくことになる。ただ、以前とは異なり、これまでのような人によるラインではなく、自動化の傾向にある。これからは、日本の企業が今までしてきたようなことを、中国でも行って、競争力をつけていくといった具合に、決して悲観的ではなく、これからが勝負であると思っている。

 

自動車以外の話をすると、電器関係の企業の見通しはあまり良くない。JETROは毎年日系企業に対する調査を行っているが、昨年4月の広東省の日系企業に対するランダム調査(161社対象)によると、これまでの業績について、「当初の計画を上回る」及び「当初の計画通り」と回答した企業は全体の57.8%で、「当初の計画を下回る」は40.8%であった。業績が上回った一番の理由は「中国での内販が増加」、業績が下回った一番の理由は「人件費の上昇」。労働力を必要とする企業はなかなか業績が伸びない。また、中長期の事業展開の見通しについては、「現状維持」が48.1%、「強化・拡大」が49.3%、「縮小・撤退」が2.5%であった。ただしこの調査は、実際に広東省に進出している日系企業1,500社のうちの161社に聞いたことなので、これだけで結論を出すのは難しい。以前は、加工貿易について、中国政府がいろいろと言ってきたが、最近は頑張っている企業を中国の地方政府も支援していこうという動きもある。

 

日系企業が抱える課題は、主に3つある。

1つ目は、人件費高騰により自動化を推進しなければならないが、そうするとリストラをせざるを得ず、現在の中国の法律では、労働者に対し非常に手厚い法律があるため人員整理をする際にトラブルになるケースが多い。

2つ目は保険。環境基準が変わり、工場の移転を求められたり、企業自らが賃料の安いところへの移転を希望したりしている。

3つ目は、人民元の上昇や人件費の高騰から、これまでのような中国国外への輸出ではなく、景気の良い中国国内に製品を販売するためにはどのようにしたらよいかということである。

 

このところ中国側が投資を歓迎しているのは、省エネ自動車、宇宙工学、自動化設備等の技術を持っている企業で、自動車関係企業はその対象から外れている。例えば安川電機が中国の美的集団と組んで産業用ロボットを作るというプロジェクトが進んでいる。美的集団は広東省で非常に有名な家電メーカーであるが、産業用ロボットの分野にも進出する。美的集団は日本にも会社があり、東芝、サンヨーなどと家電の研究開発、製造分野で色々協力してきた会社である。日本と中国の貿易、投資の関係が非常に緊密になっているのだが、唯一足りないのが、日本に対する中国企業の投資である。今、安倍政権の下、もっと対日投資を増やさなければいけないという世論がある中で、これからは日本の力のある企業が、連携の経験のある中国の企業に対して日本への投資を勧めていくことも必要だ。

 

また、日系の自動車部品メーカーには、これからビジネスチャンスがある。欧米や中国では、良い製品を作りたいと言うことで、日本の自動車部品に対する需要が高まっている。そのため、JETROとしては、商談会や展示会の機会を作って、日本の企業がビジネスチャンスをつかめるように支援している。日系同士の交流のJAPPE(日系自動車部品展示会)を10年くらい行っているが、これからは、非日系との取引や拡大する内陸部への販路を求めなくてはならない。内陸部で新しくできる生産ラインに部品を納められるよう、このような展示会を強化していきたい。

 

今日、大きな高齢者産業博覧会が開催されていて、アイリスオーヤマやTOTO等の10社が参加している。中国も高齢化に入ったが、中国にはシルバー産業がほとんどない。高齢者をめぐる社会情勢は日本と同じになってきており、質の高いシルバー産業が必要となっている。中国政府も、これは社会の安定に直結する問題であると言っている。高齢化社会に向けての産業、仕組み、社会保障などを作らなければならない。今、様々なノウハウをもった日本の企業が、中国企業と連携しながら市場を開拓していこうとしている。JETROはこれを支援しようと取り組んでいる。

JETROは引き続き、日本の制度や日本企業の製品・技術を中国の社会の発展に役立ててほしいと、ビジネスチャンスを狙っていく取り組みをしていく。中国市場における企業のビジネス改革と新しい課題としての対日投資を取り入れながら、中国と日本の経済関係と投資の関係がより発展していくように努力していきたい。